
ティルマン氏による芸術的探究は、形式的に言えば「還元的芸術(Reductive Art)」という言葉と結びつくでしょう。「還元的芸術」とは、ミニマル・アートやコンクリート・アートが築いた枠組みの余波のなかで生まれた概念であり、かつてはほとんど神聖視されていたものが越境され、新たに開かれていくなかで提示されたものでもあります。芸術家は、私たちの潜在的な可能性を掘り起こすこと──すなわち物理的・精神的世界での試み──を通して、知覚や視覚的コミュニケーションに揺さぶりをかけます。その試みは主観と客観のあいだに摩擦を生み出し、排他的でなく包摂的であり、不可視のものを可視化して「現実」の世界へと還元するものです。
ティルマン氏の作品には、「光が世界を描く(light paints the world)」という言葉に表されるように、光と空間への眼差しがあります。それは先述の創造的属性の探究であり、光と空間あるいは空間性そのものへの探究であり、日常的な知覚の境界を超えようとする試みです。それらの創造は身体的・精神的な開放を語りかけ、観者は与えられた空間のなかで光/時間の移ろいにふれ、多様な視覚的可能性との対話へと誘われます。形式的な枠組みや先入観を手放し、心をひらいて向き合うことで、その多面的な作品世界に没入することができるでしょう。
ティルマン氏の探究において、重要な役割を果たすのが「白」という色/素材です。彼にとって ‘白’ という素材は、空間や空虚、エーテルといった観念を喚起し、作家自身にも観者にも探求されることを欲する空白でもあります。白い空間──それが一枚の紙として現れるにせよ、アルミ板に描かれたものとして現れるにせよ、あるいは空間そのものとして現れるにせよ──は、思索や相互作用のための場を生み、内と外をつなぐ瞑想の場となるでしょう。
描かれたオブジェにみられるこうした思想は、場にちなむインスタレーションにも反映されています。建築的な構造をもとらえるそれらの作品は、周囲そのものが思考の担い手となり、構築、層化、透明性、相互作用、そして瞑想的な体現へ導くことで、内外の対話が生み出されます。
紙の作品、いくつかの描かれたオブジェ、そしてサイトスペシフィックな作品が皆さんをお迎えする本展覧会。kenakianでの《PASSAGE》では、近年ティルマン氏が展開してきた芸術的プロセスを辿る旅をぜひご高覧ください。
ウェブサイトより一部編集して転載
TILMAN
1959年ミュンヘン(ドイツ)生まれ。1980年代より各地にて作品発表多数。またキュレーションも数多く手がけ、現在フランスとイタリアを拠点に活動している。
ウェブサイトより転載
https://www.lookawry.org
TILMAN ‘PASSAGE’
会期:2025年10月17日(金)〜11月9日(日)
休:月曜(祝日の場合は翌火曜が休み)
時間:11:00〜18:00
会場:kenakian
住所:佐賀県佐賀市本庄町本庄1272-3
電話:0952-97-5044
入場料:無料
https://kenakian.jp
*アーティストトーク+レセプション
日時:10月17日(金)18:00スタート
経路
JR「佐賀」駅・南口を出て左へ線路沿いに進み高架下の横断歩道を渡り、「佐賀駅バスセンター」4番のりば「3佐賀女子短大・高校」「26長瀬町・平松循環線」、5番のりば「18徳万・久保田」「27嘉瀬新町・久保田」のいずれかに乗車し「西田代」下車。「佐賀銀行」を背に直進し「天祐寺橋」交差点を左折。「堀青果店」前のY字路を右に進み「ドラッグストアモリ」手前の右側。徒歩5分。自動車2台駐車可。
車椅子
単独で入ることができます。ただし2階へは階段のみ。
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