大森博之展 ─背後の手前─

背後の手前「の」の探求
平たい頭部

 
かつて作者に作品の感想をたずねられ、好きですとしか言えなかったことがある。いまでもほかになにか言うことはできないだろう。「立体作品数点、平面作品10点ほどになる予定」とのこと。
 

ゴッホはなぜ耳を切り落としたのか。ゴッホにとって自然は絶えず咆哮していた。しかし、人々はそれを静寂と感じている。ゴッホはこの途轍もない響きを他者と共有すべく心を砕く。そのために絵を描いた。光輝く色彩で画面は彩られた。だが、響きは闇から到来する。「闇」を描かない限り響きは表現できない。見えるものは「闇」の一部であり、「闇」は光の向こうに渦巻いている。彼は見えるものの背後を描く。闇の響きを色彩と形態で表現する困難のすえ、ゴッホは耳を切り、明け渡す。それは他者との「耳」の共有であり、何ものかへの供物であり、内的聴覚のさらなる獲得でもあった。
大森博之の作品を見て、上記の事を思い起こした。大森はものが出現する「背後」の「手前」を表現しようとしている。ものが出現を果たすためには膨大な「背後」が必要である。その果てに可視可触の「もの」が出現する。大森は「もの」が可視可触となる直前の状態に思いをはせる。つまり、「背後の手前」の段階である。「もの」として出現する水際の状態であり、これを把握できれば「背後」に一歩近づいたことになる。この中間領域をいかに感得するか。ここではたらくのが聴覚である。なぜならば、かたちのないものはまず響きとして現れるからだ。「背後の手前」から発せられる響きを聴くのは内的聴覚である。これはゴッホが持っていた聴覚である。今回出品された耳をモチーフとした作品は大森の内的聴覚の自覚であり、何ものかへの供物である。

江尻潔(足利市立美術館次長・学芸員)

チラシより転載

 
大森博之展 ─背後の手前─
会期:2024年9月11日(水)〜9月23日(月)
休:月・火曜(月・火曜が祝日の場合は営業し、その翌日を休。9/16(月・敬老の日)は営業、9/17(火)と9/18(水)は休み。9/23(月・振替休日)は営業)
時間:11:00〜18:00(最終日〜16:00)
会場:artspace & café
住所:栃木県足利市通2-2658
電話:0284-82-9172
https://artspace-and-cafe-ashikaga.com
 
経路
◆東武伊勢崎線「足利市」駅・北口から渡良瀬川を渡り線路を越え「通2丁目」交差点を信号を渡ってから右折、次の信号の手前左側。徒歩12分。
◆または、JR両毛線「足利」駅・北口を出て左へ道なりに進み、左手に駐輪場のある突き当たりを右折。「セブン–イレブン」を左折して直進(左折時に「エステート・ワン」のある側に必ず渡っておく)。「足利のわかりやすい歴史館」(足利学校遺跡の石柱がある)を通過し、次の信号の少し先右手。徒歩8分。

車椅子
入ることができます。
 
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