


本展では、新作「1961 They Were Standing There」をご覧いただきます。「1961」の文字が示すように、1961年、楢橋の父・楢橋國武が訪れたソ連、東欧の写真を、昨年夏より作者がセレクトしプリント制作した作品です。
古いネガが時間の経過でどんどん劣化しているという話の中で、ダンボールにまとまって入っているアルバムがあると言う、よく聞けば、作者の撮影したものではなく、作者の父による、ライプチヒ(当時東ドイツ)で開催された国際印刷労働者会議と、モスクワ(ソビエト連邦)での世界労連への行程を写したネガの束でした。そこにはソ連、東ドイツやポーランド、中国などで撮影されたらしきたくさんのスナップ写真がありました。街を行き交う人々、車窓からの風景、公園や広場、当時の車や建物、会議や交流会の様子、印刷所などありとあらゆる写真的光景が広がります。
撮影から63年後の2024年、楢橋が選び、制作したプリントには、時代やテクノロジー、国家や個人のアイデンティティの変化など、写真には写らないうつろいを描き出すかのように、美しく粒立つ粒子と、剥離や傷、ビネガーシンドロームの痕跡が描き出されます。まるで抽象絵画と写真の間を泳ぐようなこうしたイメージは、撮影者の楢橋國武も、プリントをする楢橋も想像しなかった景色です。
本展ではゼラチンシルバープリント作品をご覧いただきます。
(プレスリリースより)
1961 They Were Standing There
段ボール1箱にまとまって入っていることは知っていた。以前一度だけ開けたことはあるが、古めかしいアルバムのところどころ変色したカバーに圧倒されて、申し訳程度に覗いただけで再び閉じてしまった。
アルバムはカラー1冊、モノクロ7冊で、それぞれ10本から12本程度のベタとネガが交互に収められていた。カラーネガはほぼ透明のフィルムと化していて、画像を確認することは不可能だったし、カラーだったはずのベタはモノクロになっていた。モノクロの7冊はベタがきちんと貼られているので、ネガとの照合はやりやすい状態ではあったが、35ミリとハーフサイズが分けられていなくて、まぜこぜになっている。
幼少期、父がソ連や東欧に行ったことがあるということは聞いていたし、熊のようになって戻ってきて子供たちが泣いたなどといういかにもなおヒレもついていたが、全く記憶にはない。何度かの引越しや父の死後の大量の物の整理を潜り抜け、20年以上放置されていた段ボールをあらためなければと思い始めてからも、どれくらいの月日が経ったことか。家族のことはいつも最優先ではなく表に出すものでもなかったが、誰かがやらなければこのままただのゴミとして処分されるしかないことに思い至り、一度くらいは向き合ってみようとようやく思えたのだった。
最初はおそるおそる、じき淡々と。ネガのスリーブを入れている紙のネガ袋はとても薄くてパリパリ音がしてすぐ破けてしまう。箱を開けたときから漂う酢酸っぽい匂いも思いのほか強かった。なにかいけないことをしている気になって気が引けるのだけど、ここでやらなければ何も進まないということはわかっていた。やってみる以外の選択肢はない。やるなら暗室作業ができるうち、つまり今のうち、ということで2024年夏、プリント作業に入る。
筆まめな父は多くのノートや日記を残していた。ある日、遺品の整理を進めていて日記類を処分していたとき、一段と古めかしい大学ノートが出てきた。捨てる山の方へ放り投げて気付いた。1961と記されている。3冊あった。巻末には途中までだけれど、ご丁寧にネガ番号と何を撮った、どこで、日付なども書き込まれている。ペン、ペンタとつまりハーフカメラと35mmカメラの別も記されていた。これでアルバムとノートを照合すれば日付や場所がわかると喜んだのも束の間、アルバムがその順番になっていないのみならず、ちょっと怪しい情報などもあり一筋縄ではいかない。そういう問題は解決されないまま悩ましい状況は続くものの、これから先、少しずつ判明していくことを願っている。
夏のあいだにとりあえず300枚くらいの粗焼きをしてみた。期せずして35ミリ、ハーフともに150枚程度になった。以後、8×10、11×14、小休止を挟み、見切れなかったベタを再度チェックして落穂拾いを繰り返す。ネガの状態が変化しているものもあり、まるで生きているかのようで、そのたびに小さな驚きや発見がある。焼きたいときに焼きたいものを焼く、というシンプルでベーシックなやり方が、このシリーズの場合とてもふさわしいと実感している。楢橋朝子
プレスリリースより
楢橋朝子作品展「1961 They Were Standing There」
会期:2025年5月8日(木)〜7月2日(水)
休:日、祝日
時間:11:00〜18:00
入場料金:無料
会場:PGI
住所:東京都港区東麻布2-3-4TKBビル3F
電話:03-5114-7935
https://www.pgi.ac
*関連展覧会
「Drifting but Never Sinking 02」
会期:2025年5月13日(火)〜5月31日(土)
時間:火〜土11:00〜18:30
会場:IG Photo Gallery
https://www.igpg.jp
経路(PGI)
◆都営大江戸線「赤羽橋」駅・中之橋口を出て右、「ファミリーマート」の角を右折。四つ角を越え、次の四つ角の横断歩道を渡り直進、突き当たりを左へ。再び突き当たりを右折、「まいばすけっと」を右に見て小さな交差点を直進し左手の建物。オートロックのためインターホンで呼び出し。
車椅子(PGI)
ビル入口に段差あり。車椅子単独の場合は電話、介助者がいる場合はインターホンか電話でスタッフを呼び通用口から案内。
SNS(PGI)
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