ストラポンタン(展覧会紹介など)

リュック・タイマンス 結露

 

Palestinian Wildflower
2026, oil on canvas, 71.8×48.1cm
©Studio Luc Tuymans, courtesy WAKO WORKS OF ART

 

Swan Lake
2026, oil on canvas, 61×46.7cm
©Studio Luc Tuymans, courtesy WAKO WORKS OF ART

 

Mural Kitten
2026, oil on canvas, 59.8×62.4cm
©Studio Luc Tuymans, courtesy WAKO WORKS OF ART

 

このたび、軽井沢のリヒター・ラウムにおいて、ベルギーの画家リュック・タイマンスの新作展を開催する運びとなりました。展示空間にあわせてあらたに描き下ろした6点の油彩画《Funnel(漏斗)》、《Apron(エプロン)》、《Mural Skul(壁画の髑髏)》、《Mural Kitten(壁画の子猫)》、《Palestinian Wildflower(パレスチナの野花)》、《Swan Lake(白鳥の湖)》を展示いたします。いずれも世界初公開の最新作です。
 
1958年ベルギー・モルツェル生まれのタイマンスは、同世代を代表する画家のひとりです。1980年代以降、写真、映像、印刷物、デジタルメディアなど、すでに別の媒体を経たイメージを出発点に、それらを抑制された、どこか不穏さを帯びた絵画へと移し替えることで、絵画の可能性を大きく押し広げてきました。画面に描かれているものと、描かれずに残されているもの。双方が拮抗しながら作用しているところに、タイマンスの絵画の大きな特徴があります。
 
今回の個展タイトル「Condensation(結露)」は、タイマンスの制作の核心に迫る言葉といえます。結露とは、本来は見えないはずの差異が可視化されたものです。遅れて出現し、部分的であり、その原因は別の場所で起きている出来事にあります。リヒター・ラウムに集められた本展の絵画もまた、まさにそのように立ち現れます。ゆっくりと現れ、輪郭を見せないまま表面にとどまり、再び溶け出して消え去ろうとするそれらのイメージは、画面上に現れながらも、その成立の条件をなお外部に残しています。タイマンスの作品が捉えているのは、そうしていまだ成立しきらない像であり、イメージが今まさに生まれようとしている、その不安定な時間なのです。
 
今展を訪れた方が最初に目にすることになる《Funnel(漏斗)》では、暗い画面の中央部に、小さな発光体のような像が浮かんでいます。遠くからは一点の光源のように見えながら、近づくにつれその正体は定め難くなり、ランプなのか、開口部なのか、傷口なのか、といった想像に鑑賞者を誘います。認識に先立って視線そのものの誘引をひきおこすのがこの作品の大きな特徴です。
 
《Apron(エプロン)》では、ありふれているはずの衣服が、何かの残滓や痕跡のようなものに変貌しています。垂直に伸びる黒い影のような形状、乱れた背景、赤みがかった染み。布地と身体、ケアと暴力、清潔さと汚染といった要素が互いに侵入しあっています。2024年5月から1年間に渡ってルーブル美術館で展示された連作壁画《L’Orphelin(孤児)》においてタイマンスは、パレットを洗う画家の映像を壁画に変えました。今回の《Apron(エプロン)》においてもまた、創造するという行為と、消すことのできない痕跡が、ひとつの画面に同居しています。
 
《Mural Skul(壁画の髑髏)》と《Mural Kitten(壁画の子猫)》はどちらもタイトル通り壁画に由来する作品です。タイマンスにとって壁画とは、場所、スケール、記憶が切り離せないかたちで結びついたものです。描かれた像はその場所に属し、空間と分かちがたく結びついたまま、全体の一部として存在しています。描かれた髑髏や子猫はたんなるモチーフとして現れているのではありません。それらはいったん別のかたちを経て、どこか別の場所で見られ、厚みを失い、引き伸ばされ、薄められたイメージなのです。《Mural Skul》では、典型的な死のモチーフが思いがけない軽さを帯びています。《Mural Kitten》では、親密さそのものが輪郭を失いかけたまま宙づりにされ、今にも消えてしまいそうに見えます。それらは壁や建築の印象と重なりながら、記憶の表面に貼り付くようにして残ったものなのかもしれません。
 
《Palestinian Wildflower(パレスチナの野花)》と《Swan Lake(白鳥の湖)》はまた別種の緊張感をはらんでいます。ごく控えめな花のモチーフを扱う《Palestinian Wildflower(パレスチナの野花)》の画面は、その作品タイトルに導かれるようにして、土地、記憶、喪失、そして名付けをめぐる問いへと展開していきます。ガザでの破壊が続き、停戦も不安定な現在において、この作品に備わる抑制はほとんど耐え難いほどの重みへと転じています。その静けさは、背後の厳しい現実をかえって先鋭化しています。一方《Swan Lake(白鳥の湖)》では、淡い人物像が霧や光のなかから浮かび上がるように画面に現れ、舞台や物語を思わせながらも、最後まで安定した身体像が見えてきません。その姿はそこにありながらそこにはなく、その輪郭はまとまりかけてはまたほどけていこうとしています。
 
近年のインタビューでタイマンスは、視覚イメージを成立させるには距離が必要であること、そして遠くからは像として保たれていたものが、近づくにつれて崩れはじめることを語っています。本展の6点の絵画に描かれた像は、ある距離のなかで立ち上がり、近づくにつれてその輪郭を揺らがせていきます。主題も、温度も、気配もそれぞれ異なりながら、いずれもイメージが定まりきる前の認識の前触れ、私たちが世界の捉え方を確定する瞬間の直前の、不安定な状態を指し示しています。うつろう外光と室内の静けさが画面との距離をそのつど意識させるリヒター・ラウムでは、その揺らぎがいっそう際立って感じられるかもしれません。この機会にご高覧いただければ幸いです。
 
プレスリリースより転載

 

Luc Tuymans リュック・タイマンス
1958年ベルギー・モルツェル生まれ。現在はアントワープを拠点に活動。
 
◇Luc Tuymans ウェブサイト
https://www.luctuymans.be
 
◇Luc Tuymans Instagram
https://www.instagram.com/studioluctuymans/

 

リュック・タイマンス 結露
会期:2026年5月30日(土)〜10月31日(土)
入場方法:事前オンライン予約制
会場:リヒター・ラウム
住所:長野県軽井沢町軽井沢1323-1475
電話:0267-48-6080
入館料:一般1,200円、大学生800円、学生(中・高校生)無料
※大学生は入場の際に受付にて学生証を提示
※入場は中学生以上

https://www.richterraum.jp
 
※リヒター・ラウムにて「ゲルハルト・リヒター:10 Drawings and 2 Collages」を同時開催

 

アーティスト・レセプション
日時:2026年5月30日(土)15:00~18:00
入場方法:事前オンライン予約制

 

経路(バス)
  • JR・しなの鉄道「軽井沢」駅・北口を出て、バス停1番のりばから、西武観光バスまたは町内循環バス(内回り)に乗車して「泉の里」で下車(約7分)
  • バスの進行方向とは逆に、戻るように進む(約3分)
  • 右側庭の奥、白い壁面の一階立ての建物。
経路(徒歩の一例)
  • JR・しなの鉄道「軽井沢」駅・北口を出て左へ。交番を左に見てしばらく進む
  • すこし蛇行する道を通過
  • 「新軽井沢西」交差点を左折
  • 「軽井沢書店」「TRUFFLE BAKERY」「デリシア」を通過
  • 高架をくぐる
  • 次の信号(「南ヶ丘入口」交差点)を右折
  • すぐの角を左折、道路を進む
  • 信号のない交差点を通過
  • レストラン「Hamy’s」の角(右角にカーブミラー)を左折
  • 左側庭の奥、白い壁面の一階立ての建物。約20分。
経路(その他)
  • JR・しなの鉄道「軽井沢」駅・北口からタクシー約6分。
  • 駐車スペースに限りがあるため、自動車での来場の場合は予約時に「一般:お車の方」の選択が必要(なお時期により周辺道路が混雑する場合あり)。

 

車椅子

道路から敷地内へは途中に段差あり。建物入口にも2段の段差あり。スペースへ連絡の上、お手伝いの対応可能。