学生の頃、白いキャンバスへ向かうことに迷い、身体が動かなかったことを覚えています。描くべき対象を自身の内に見つけようとの心得違いの故でした。モティーフ、つまりモティベーションは作者の外部世界にあることに気付いていなかったからに違いありません。その頃ロクロでの回転に併せて立ちあらわれる形に、身体と物質との関係を観て心惹かれました。描くことに逡巡していたことの裏返しだったわけです。目の前にあらわれる形が外部世界に出現し、描くことができる対象となり得たわけです。
このように、素材と自己との応答がモティベーション・モティーフとなり、長らく制作を継続することが叶っています。自身が作り出した仕事もまた自身の外部にある、観ること、触れることが可能な存在として対象化され続けた証しと考えます。眼前の素材と、それに関わる加工過程がモティーフとして有り続けました。
近年、制作の糸口に習作としてマケット、雛形の制作を頻繁に続けています。その素材は手近にある数多の簡便に変形できる、加工が容易な物たちです。手軽とはいえ、頻繁に繰り返される素材との応答が結果として残されます。雛形が、作者の新たな観て、触れることができる外部世界の対象として制作の動機となっています。これら自ら作った小さな造形への感応を、どのように言い表すかを試み始めました。デッサンするように、物の形の写しではなく物の見方として、陶での雛形の書取り、記譜を始めました。対象を言い当てることによって虚構化し、鑑賞を通して作者の感応が共有されると考えています。


土を捏ね、焼きしめて生成される陶は、古くから器など日常の中で使われてきましたが、井上はその身近な素材で作られたパーツを積み重ね、大規模な作品を構築するという手法により、日本を代表する現代陶芸作家の一人として活躍しています。大作になると、100以上のパーツをボルトで固定して組み上げる事でダイナミックな造形を生み出し、陶による表現の可能性を追求し続けています。
2024年の個展では両掌にのる小品ながら90点という物量が井上の尽きることない創作意欲を示し、2025年には一塊で窯に入る最大サイズの作品により新たな制作システムの構築に取り組み、飽くなき探求心をもって制作に向き合う姿が見られました。今展では、異素材で制作するマケットに自身が抱いた興味をいかに陶という素材で表現するか、試行錯誤の中で作り上げられた新作6点と小品を展示いたします。新たな造形へと形と素材に日々向き合う井上の作品をお見逃しなく、ぜひご高覧いただきますようお願いいたします。
プレスリリースより抜粋して転載
井上雅之(いのうえ・まさゆき)
1957年兵庫県神戸市生まれ。
◇ウェブサイト
https://masayuki-inoue.com
井上雅之展「雛形より 記譜」
会期:2026年10月5日(月)〜10月24日(土)
休:日曜、祝
時間:10:30〜18:30
会場:ギャルリー東京ユマニテ
住所:東京都中央区日本橋兜町15-12 八重洲カトウビル1F
電話:03-3562-1305
https://g-tokyohumanite.com
- 東京メトロ銀座線・東西線または都営地下鉄浅草線「日本橋」駅・D1出口から地上に出て進行方向に直進
- 「昭和通り 中央区日本橋二丁目」の表示のある歩道橋を通過したらすぐ左折
- 高速道路の上にかかる橋(新場橋)を渡る
- 左手にある「セブン–イレブン」を通過(桜並木に入る)
- 「桜通り歯科クリニック」を過ぎて左側すぐに「八重洲カトウビル」。そのビルの1階(自動ドアの入口)。
- 東京メトロ東西線・日比谷線「茅場町」駅・12出口から地上に出てすぐの「兜町」交差点を右折(「内藤証券」の角)
- 「阪本小学校前」交差点を通過
- 「くすりの福太郎」の角を右折(桜並木に入る)
- 鰹節専門店「大和屋」を通過してすぐ郵便ポストの前が「八重洲カトウビル」。そのビルの1階(自動ドアの入口)。
建物入口に約12cmの段差あり。自動ドアは両開き。会場内、展示内容によっては車椅子の幅の通路を確保できない場合あり。
