
IDEAL COPYは「1988年に京都のギャラリー射手座で開催した“Channel: Mode”を機に結成されたクリエイティヴ・プロジェクト。発表ごとに不特定の複数メンバーで構成される。その活動は、彫刻や絵画といった既存のアートの形態ではなく、企画したプロジェクト自体を芸術として遂行するというプロジェクト・アートである。「アーティストは『作品』と『社会のシステム』のなかに存在する」という概念に基づき、IDEAL COPYのシステムを作り、様々な人が関わることで、その行為と結果を作品とする。メディアを通してワールドワイドな展開の可能性を追求している」。
(「」内プレスリリースより抜粋)
そこには意味がある:立ち止まり、考える。
プレスリリースより
大槻晃実
今回の連続企画はIDEAL COPYからスタートする。
彼らは60年代中頃より発生した学園紛争の史実と、その際に武蔵野美術大学の学生が残した逸話を起点に、プロジェクト「Channel: Musashino Art University 1968–1970」を立ち上げた。ここでは、はじめにIDEAL COPYのコンセプトとその活動を確認したのち、本プロジェクトの輪郭をなぞってみたい。彼らがここでなにを試みようとしているのかを知るための、道しるべとなるように。
1988年に京都で結成されたIDEAL COPYは、プロジェクトごとに変動する不特定の複数メンバーで構成される匿名のアートユニットである。彼らは、固有名を持つ個人が匿名的な存在にも成り得る社会で、日常において構築・更新されていくシステムそのものを現代社会の創作物(作品)であるとし、その生成の行方に着目している。そして「社会のシステム」という構造内における不透明な事象を浮き彫りにしながら、我々の知識や常識に対し問いかけ続けている。1993年に発表して以降、継続して行われているプロジェクト「Channel: Exchange」は、彼らが開設した両替所で、来場者が持参した外国硬貨に対して重量を基準にIDEAL COPYコイン(IC)と交換するというものである。ここでのレートは決して変動せず、外国硬貨1gに対し1ICと定められている。紙幣は国外へ持ち出しても両替が可能であり貨幣価値は担保されるが、硬貨は流通している国でしか使用できない。旅先で手に入れた外国硬貨は持ち主にとっては思い出としての価値はあるものの、国外に持ち出せば経済流通から分断され貨幣としての価値は消失し、単なる「金属」と化すことを意味する。そして、交換された外国硬貨をIDEAL COPYは「金属」のオブジェとして展示する。すなわちここでは、外国硬貨が貨幣価値を失う一方で、「作品」として新たな価値が生み出されるという転換が行われているのだ。また、彼らは近年「Channel: Copyleft」(2021)を京都で発表した。ウェブサイトで公募された、著作権を放棄した音源が再生される展示空間で、鑑賞者はIDEAL COPYの限定400本のカセットテープに、会場内に流れる数十種類の音を録音し所有することができるというプロジェクトである。タイトルにあるCopyleftとは、誰でも自由に入手でき、使用、改変、複製が可能であるという著作物の権利に関する一つの考え方だ。この主張に基づき、IDEAL COPYの制作物であるカセットテープに記録した音は誰の作品となり、誰の著作物であるのかを問うものとなった。本プロジェクトは音のオリジナリティに関する疑問と課題を提起するものであり、社会において保護されている権利に焦点を当てたものである。
このように、社会が生み出す制度に着目しさまざまなプロジェクトを続けるIDEAL COPYは、αMを運営している武蔵野美術大学の歴史を調べ、大学制度を大きく揺るがす学園紛争という歴史的事象と、当時の武蔵野美術大学の学生が都内のデモに参加する際に構内のレンガを持参したという逸話にたどり着いた。
当時の学生デモは、現場で歩道の敷石を砕いて投石することが一般的な行動であったようだが、武蔵野美術大学の学生は、わざわざ構内に敷かれているレンガをきれいに抜き取って、東京郊外の地から都心まで持っていったという逸話に、美術大学の学生ならではの「表現」が見受けられることにIDEAL COPYは注目したのだった。
本企画においてIDEAL COPYは、展示室の床面に焼成されたレンガ100個を並べる。うち99個は今回の展示のために製作したIDEAL COPYオリジナルレンガで、残る1個は武蔵野美術大学に保管されていたレンガである。
IDEAL COPYはαMという空間において、レンガを起点に武蔵野美術大学を考察する。
Channel: Musashino Art University 1968–1970
IDEAL COPY
IDEAL COPYは武蔵野美術大学を探究する。
1968年から70年にかけて国内でおこった学生運動は、武蔵野美術大学にも波及した。ある日、一人の学生が構内に敷かれていたレンガを抜き取り、それを持って多くの同志とともにデモに参加するため都内へ向かった。そのような逸話が残る武蔵野美術大学には、一つのレンガが残っている。
IDEALCOPYはこの逸話をもとに、レンガを通して、当時の武蔵野美術大学の学生が、学生運動においてどのような「表現」をしたかに焦点を当てる。
1962年 学校法人武蔵野美術学校を学校法人武蔵野美術大学に改称
1969年 「大学運営に関する臨時措置法案」立法化反対全学ストライキ可決(学生大会)に端を発して大学闘争が起こる
芸術祭中止
1970年 卒業制作展中止
芸術祭中止、臨時休校
プレスリリースより
立ち止まり振り返る、そして前を向く
プレスリリースより
大槻晃実(芦屋市立美術博物館)
この場所で私に何ができるのだろうか。最初に考えたのはそのことだった。私は公立美術館で学芸員として働いている。だが、指定管理者が運営する美術館であるため、公務員ではなく会社員だ。コレクションが健康な状態で受け継がれ、これから先も美術館が存続していくという未来は、決して当たり前のことではない。大切にしていくべきこと、守らなければならないことには多様な視点や局面があり、それがちぐはぐに組み合わさった居心地の悪さが常に同居している。
そんな学芸員が、このαMという場所とどう向き合えばよいのだろうか。各地の美術館が様々な事情を抱え、困難に直面している。それは今もこれからも変わらないだろう。しかし、たとえどのような運営形態であっても、誰が運営者であっても、美術館にはかけがえのないものがある。それは、その美術館の歴史に寄り添いコレクションから刺激を受けながら展覧会を企画してきた歴代の学芸員や、地域や行政との間で試行錯誤しながら運営に関わってきた職員が経験を蓄積してきた場所であり、観客が作品と出会って思いを深めた展示室という場所だ。
30年以上にわたって時代の先端を敏感に察知して活動を続けてきたこのαMという場所では、作家がいて作品があり、鑑賞者が集い、対話や議論が重ねられる日々が続いてきたことだろう。そんな場所の過去と現在を往来しつつ、作品との対話の中から鑑賞者が自ら問いを立てて答えを探るような、そしてそれを皆で共有できるような場を作りたいと思う。参加してくれる作家たちと議論を重ねながら、歴史と今この時の美術を同じ次元でとらえることで、「美術のための場所」のことを皆で共に考えていく2年間にしたい。自ら考えるという行為を続けることこそが、この社会で美術を健全に存在させていくためには不可欠であるはずだから。
αMプロジェクト2025–2026 立ち止まり振り返る、そして前を向く vol. 1
IDEAL COPY|Channel: Musashino Art University 1968–1970
ゲストキュレーター:大槻晃実(芦屋市立美術博物館)
会期:2025年4月12日(土)〜6月14日(土)
休:日・月曜、祝
時間:12:30〜19:00
入場料:無料
会場:gallery αM
住所:東京都新宿区市谷田町1-4武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス2階
電話:03-5829-9109
https://gallery-alpham.com
※会期および開廊日時の変更、並びに入場制限等の対応を検討する場合あり。最新情報は、Webサイト、SNS等を確認のこと。
*トークイベント
日時:2025年4月12日(土)16:00〜
・大槻晃実
・吉村麻紀(デザイナー)
・冨井大裕(αMディレクター)
・小野冬黄(αMアシスタントディレクター)
経路
JR中央線・総武線「市ケ谷」駅・出口1、または東京メトロ有楽町線・南北線「市ケ谷」駅・都営地下鉄新宿線「市ヶ谷」駅・出口4を出る。出口1からの場合は左へ、出口4からの場合は正面へと進む(建物の屋上の看板に「TKP」とある方へ)。線路、外濠を下方に見て直進。「市谷見附」の交差点に突き当たり、「くすりの福太郎」「富士そば」の方に横断歩道を渡ってから右折。「モスバーガー」「マクドナルド」「ファミリーマート」を通過してすぐ左側にgallery αMが入っている「武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス」。ギャラリーの入口は「MUJI com」店内の階段を上がった先の2階。徒歩3分。
車椅子
MUJI com店舗から入場、左手の自動ドアから武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスのエントランスへ。インターフォンにてスタッフに連絡。スタッフが解錠したゲート(右)から入場、エレベーター(右)へ。2階のエレベーターホール扉をスタッフが解錠、αMへ(※電話でのご連絡の場合、スタッフが1階に下りてご案内)。ベビーカーの方なども同様。
SNS
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